松屋銀座デパートで5月11日(月)まで開催されていた
「ミヒャエル・ゾーヴァ(Michael Sowa)展 描かれた不思議な世界」
に行きました。
ミヒャエル・ゾーヴァはインタビューの中で語っていました。
「仕事が仕事を呼び、人が人につながり、新たな扉を開く」
もともと積極的に自分から何かを求めてゆくタイプではなく、
誰かに背中をおされたり、手を引っ張ってもらったりして
いつの間にか前を歩いていたような気がする。
人生には大きなターニングポイントがあり、自分にとっては
一つの展覧会の成功で絵本の挿画の仕事が舞い込みそれ以降
自分を取り巻く環境は大きく変わった・・・
<映画「アメリ」より>
<アメリのベッドの上に飾られていたクジャクの絵>
彼の名前を知らなくても、映画「アメリ」の中で、アメリの
ベッドの上の壁にかけられていた真珠の首飾りをした
白いクジャクの絵や病気の犬やワニの絵、豚の電器スタンド
の作者、あるいは「ちいさいちいさい王様」(トップ画像参照)
や「エスターハージ王の冒険」の挿画を手がけた画家と
いわれればピンと来るひともいるかもしれません。
ゾーヴァはありきたりの風景の中にちょっとした「異」や
「ユーモア」「風刺」を描き込んでいます。
例えば、感謝祭に向かう七面鳥の夫婦の後ろに忍び寄るの
フォークを持った人間の影・・・。
家のドアの前にたたずむのは腕に三角巾をした猫。
婦人が首ひもをつけて散歩につれているのは蛾。
ウソをついた女の子の口からはひきがえるが出てくきたり・・
ペンギンが街中を飛んでいたり・・
はたまた橋の上で地元料理を襲うのはハンバーガー達。
ジャガイモ倉庫へ歩いてゆくのはジャガイモ達
皿の上では腐った食べ物や細菌が楽しげに会話してます。
ゾーヴァは気に入ったモチーフは何度も何度も大きさや構図を
変えて描いています。
スープ皿のなかでニッと笑う豚や、草原の池に向かってダイブ
する豚など数パターン描いている作品が多々あります。
また画家ではなく上描き屋とあだ名される程、完成した作品
でも後から筆を入れ、原型をとどめていない作品も多数あります。
ゾーヴァの仕事をみていると、もっと自由でいいんだ。という
ことに気付かされます。誰も束縛も制限もしていないのに
知らず知らずに余計な制約をつくっているのは自分自身だったのだと。
ゾーヴァが世に知れ渡るきっかけは確かに挿画が大きいけれど、
もう一つ大きなきっかけとなるのが旧知の仲だった
ミヒャエル・エッター氏が会社を立ち上げて始めたポストカード
の販売でした。画家であったゾーヴァにとって、ポストカードは
より多くの人に自分の作品に触れてもらえる良いきっかけでした。
<こちらでゾーヴァ作品のポストカードがみられます>
http://www.hyakuchomori.co.jp/life/card/michael_sowa/pages/sowa_card2.shtml
ゾーヴァの作品を観ながら、彼の作品が多くの人の目に触れ
愛されるようになったのは単なる強運などではなく必然的に
導かれて行ったという事が一目瞭然でわかります。
作品自身の個性ある魅力、アイディア、ユニークさ、
時にとってもラブリーであること、もちろん圧倒的な画力、
そしてユーモアとアイロニーの完璧で絶妙なさじ加減。
観る側を惹きつけて楽しませる要素が作品にはたくさんつまって
いるのです。
ゾーヴァの絵を観ていると話しかけたくなります。向こうがこちらの
問いにユーモアたっぷりに返事してくれる様な気持ちになるからです。
対話できる絵画ってそれだけでとても魅力的です。
余談ですが、ゾーヴァ作品の「ユーモアさ」を観ているとなんとなく
江戸時代の浮世絵画家、歌川国芳を思いまだします。
国芳もまた、作品の中に「ユーモア」と「皮肉」を巧みに
織り込んだ魅力ある作品の創り手でした。
<これは国芳作、「金魚づくし」のシリーズから>
<いかだのり>
筏の上には金魚が。
<こちらはゾーヴァ作「渡航」>
筏の上には一頭の豚が・・。
*大きな絵の中の小さい豚なので画面中央に小さくいます。
<同じく国芳「金魚づくし」から>
<にはかあめんぼう>
空から降ってくるのはなぜか雨ならぬアメンボウ!
<そしてゾーヴァ作そら耳本「白い黒人のウンババ」より>
<死体が空から降ってくる・・・(本当のタイトルは不明)>
空から降ってくるのは・・なんと骸骨!
両者とも観る側の心を浮き立たせ、ちょっとにんまりとさせて
くれるという共通点があります。チャーミングな絵、です。
自らの成功について淡々と語るゾーヴァのインタビューをみながら、
彼は適正な時期にきっと「開いて」いたのだろうな・・
と思いました。
なぜなら運命は本人が「閉ざして」いるときには決して
訪れてくれないような気がするからです。
人生には必要があってじっとしていなければならない時期や
「閉ざさざる終えない」時期もあったりするけれど、頭から離れ
ない自分がなすべき事を「Do」できなくても「Plan」しつづけて
いれば必ず再び「開く」タイミングは訪れると思うのです。
「Plan」「Do」と改めて自分にも言い聞かせました。
会場2カ所わたってインタビュービデオが流されており、
彼の生き様やら言葉をききながら、そしてたくさんの作品と
対話しながら、色々と考えさせられる展覧会でもありました。
ゾーヴァに感謝の言葉を贈りたいです。
*今回は携帯からの画像だったのでちょっと画面が
粗い感じになってしまいました。