「若冲展」番外編

という訳でようやく番外編です。

<ほのぼのとした羅漢>

先行プレビューに先立って午前中、若冲ゆかりの寺「石峰寺」を訪れました。

石峰寺は晩年、若冲が隠棲者としてその古庵に住んだことで知られています。
「米斗庵」または「米斗翁」の号を使って一画描いては米一斗と引き換えにしいたそうです。


<どこかユーモラスな羅漢像>

この寺にて若冲は五百羅漢を制作しました。それには10年もの歳月を要したそうです。
石峰寺の冊子によれば、「羅漢」とは釈迦の説法を聞き世人より供養されるものを言うのだそうで、釈迦入滅後その教えを広めた数多の賢者を賛嘆する意味で宋、元の時代より五百羅漢というものが作られるようになったのだそうです。

仏教に深く帰依した若冲は石峰寺にて五百羅漢の下絵を描き、石工に掘らせたそうです。
釈迦誕生から涅槃にいたるまで重々しい羅漢像というよりは、どこかユーモラスで親しみのある石像群が静かな禅寺の山にひっそりと立ち並んでいて、それらはどれも、言葉は適切でないかもしれませんが、とてもチャーミングです。若冲のまた別な一面をまたかいま見た気が致しました。
そしてこちらのお寺には若冲のお骨などが納められているお墓もあります。頭髪を納めてある相国寺のお墓と合わせて、若冲ファンならこの機会にぜひ行ってみてはいかがでしょうか。


<こちらが石峰寺の若冲のお墓です>

番外編として、ミュージアムショップについても触れたいと思います。
今回に限ってなのだそうですが、外のテント作りのところにショップがもうけられています。会場を出て50メートル程は歩いた所でしょうか。図録は会場出口内にも売っていたようです。

ポストカード等は絵の画面サイズに細長く作られていて、余分な余白がありません。それ故「動植綵絵」そのままの雰囲気が楽しめます。印刷のクオリティも高いと思いました。
ポストカードは33幅全部そろっていて、1枚100円とお得なのですが、「動植綵絵」のシリーズは6枚セットが5種類売られています。これだと1セット(6枚入り)500円と更にお得です。まとめ買いされるならこちらをおすすめします。
墨で描かれた虎図や鯉図、龍図なども絶妙な感じで手ぬぐいになってました。私は思わず虎図バージョンを購入していまいました。
虎図はTシャツにもなっていてこれもなかなかかっこ良いです。実は再会の旅でこちらも購入してしまいました。(許して・・・若冲バカだから)

図録は薄紙のかかったハードカバーになってます。
ブライス氏のコメントや、美術史家で「奇想の系譜」の著者でもある辻惟雄氏と相国寺派管長の有馬賴底氏、日本画家の森田りえ子氏の対談など興味深い記事も豊富です。作品の印刷もとてもきれいで、全体図以外にもトリミングしたアップした絵も載っています。
この立派さで2,500円は絶対にお買い上げした方がよいかと思います。

というわけで、長々日記を綴って参りました。
若冲熱まだ覚めやらずですが、あとは図録をゆっくり眺めて余韻に浸りたいと思います。

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開基足利義満600年忌記念「若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会」
公式ホームページ
http://jakuchu.jp/jotenkaku/

会期: 2007年5月13日(日)〜 6月3日(日)
会場: 相国寺承天閣美術館
開館時間: 午前10時 〜 午後5時
(入館は午後4時半まで)
休館日: 会期中無休
観覧料:   当日券 前売券・団体割引
        一般  1,500円 1,200円
大学生/高校生/65歳以上 1,200円 900円
   中学生/小学生 1,000円 700円

「若冲展」番外編でもその前に「プラス」


<鹿苑寺大書院障壁画 松鶴図襖絵>

今日は若冲の五百羅漢像やお骨が納められてる石峰寺について、それからミュージアムショップ、図録などについてふれたいと・・・・
思っていたのですが、番外編プラス発生につきまずはそれから。

<伊藤若冲《葡萄図》部分 重要文化財/鹿苑寺蔵>
<第一会場の墨絵の作品もすばらしいです>

実は、昨日とうとう、やもたてもたまらなくなって、急遽京都に日帰りで行ってきてしまいました・・・・。
もちろん「若冲展」だけを観るために。
自分でも信じられない行動力です。朝、9時半頃思い立って慌てて身支度、渋谷で新幹線チケットをい、午後一時前には京都駅に着いてました。
そして承天閣美術館で2時間45分、幸福の再会をはたし、夜7時には品川に戻ってきてました。
若冲バカです・・・はっきりいって。
でもどうしてももう一度じっくり観たいと言う思いをたちきれませんでした。
ゆっくり堪能できて満足してます。おさいふは相当痛いですが・・120年ですから!
改めて若冲の「白」がとても深く多種にわたっていることに気付かされました。


<竹虎図>

というわけで、せっかくなので昨日の時点(16日午後1時30分頃〜4時過ぎ頃まで)の会場の状況報告致します。
チケット売り場は4ブースあります。すいていて人が全く並んでいない状態だったからか2ブースはクローズしてました。

会場への入り口は美術館をぐるりと囲むような回廊がつくられて、美術館裏手に作られた本展のための入口まで歩かされます。これが意外と長い距離あります。
混雑時ならここに人がずら〜っと並ぶことになるのだと思います。昨日は全く並ばず入場できました。トイレ等は出口付近に一個ありましたが、その他はこの列の近く(つまり外?標識がありました)にあると思われます。

入口に入ると直接第一会場にむかうようになってます。一応「第一会場から第二会場へいったら戻れません」と案内に書かれてますが、これは混雑状況で融通が利くようでした。昨日も会場の担当者によっては「戻って良い」という人と「戻れません」という人がいたましたので。
「動植綵絵」が飾られている第二会場内は順路は関係なく空いてる絵から観て良いそうです。さすがにこちらの会場に入ると結構人がいましたが、それでも絵によっては開いてる状態が起きてたので、私は開いている絵からゆっくりじっくりみてゆきました。
どの絵も等しくクォリティが高い若冲の絵なので一つの絵だけに人が常に群がっているというよりはタイミングによってどの絵も空いてる時間ができているようでした。
ただし「釈迦三尊像」に関しては常に相国寺にあるからなのか「動植綵絵」に比べて人がすくなかったです。実際後ろで地元のおば樣方が「これはここにいつもあるんやろ」とおっしゃってましたので(笑)

先行プレビューで恵まれた環境で絵を拝見できた私でしたが、京都の皆さん(殆どが地元の方のようでした)の言葉をBGMに絵を観るのもまたいいものでした(若冲の身内なの?と思いたくなる事情通なおじいさまとかいたりしましたし)

というわけで「プラス」終了です。
追って番外編に進みます・・・

(今日の写真は第一展示室に飾られていた墨絵中心にしてみました
 *こちらの写真は先行プレビューの時に特別に撮影が許された時のものと
 メディア用に頂いたCDROMから使用してます。
 残念ながら、会場にての撮影は許可されてません。)

開基足利義満600年忌記念「若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会」
公式ホームページ
http://jakuchu.jp/jotenkaku/

会期: 2007年5月13日(日)〜 6月3日(日)
会場: 相国寺承天閣美術館
開館時間: 午前10時 〜 午後5時
(入館は午後4時半まで)
休館日: 会期中無休
観覧料:   当日券 前売券・団体割引
        一般  1,500円 1,200円
大学生/高校生/65歳以上 1,200円 900円
   中学生/小学生 1,000円 700円

「若冲展」京都で奇跡を観た 展示編


<伊藤若冲《菊花流水図》〈動植綵絵30幅の内〉/宮内庁三の丸尚蔵館蔵>
<ブライス氏もっともお気に入りの一点>

若冲画との対面からはや4日が過ぎようとしてますが、もう心は再会しいたい気持ちにこがれています。

今日は展示について触れてみたいと思います。
我々、ブロガー先行プレビュー隊?が最初に案内されたのは、釈迦三尊像と動植綵絵が飾られている第二展示室でした。部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、包み込む空気が変わりました。

若冲が導く「異界」入口にやってきたのです。そしてそこには33の「異界の窓」が開かれていたのでした。釈迦三尊像を中心にシンメトリーに並んだ動植綵絵。その並び順も完全に対を成すように考えられたものでした。若冲は最初からそう意図して作品を作ったのでしょうか・・・「動植綵絵」について、若冲が最初から30幅という計画の元に制作を始めたのかどうかはわかってないのだそうです。


<「群魚図」(蛸)から動植綵絵は始まります>

会場右手から順路に従ってに観て行くとまず最初の動植綵絵、親子のタコなどが描かれた「群魚図」(蛸)が目に入ります。つまりこれは釈迦三尊像を中心にシンメトリーに飾られた右側15番目の絵となる訳で、翻って左側15番目の作品を観てみるとそこには「群魚図」(鯛)が飾られています。できれば釈迦三尊像を起点に左右順に観て行ければ興味も更に深まるかと思います。が、残念ながら今回は順路を考えるとそのような贅沢な観方はできないかと思います。私もそのようは観方はできなかったのですが、せめて並び順等を心に留め置いてみていかれると良いと思います。


<伊藤若冲《普賢菩薩像》/相国寺蔵>


<伊藤若冲《老松白鳳図》〈動植綵絵30幅の内〉/宮内庁三の丸尚蔵館蔵>

釈迦三尊像最初の両脇を固める絵としてまず選ばれたのは、鳥の中の王である作品、右に「老松孔雀図」左に「老松鳳凰図」。どちらも神々しさをはなち王の風格と気韻を漂わせています。更にそのとなり第二の絵としては右に「芍薬群蝶図」左に「牡丹小禽図」。
相国寺承天閣美術館学芸員の村田隆志さんによれば「牡丹」は花の中の王様と考えられ、さらにはおめでたい花なのだそうです。そして「芍薬」(しゃくやく)は花の中の相国すなわち宰相(総理大臣)なのだそうです。芍薬と共に描かれている「蝶」は文人やお坊さんを表しているそうです。これら観点から釈迦三尊像を囲む絵の並び順を決めて行かれたそうで、それらは完璧に矛盾なく最初から決められていた順のように毅然と並んでいるのでした。

<釈迦三尊像を囲む動植綵絵>

そもそも伊藤若冲は自分と両親の永代供養をして欲しいと申し出て、釈迦三尊像と動植綵絵を相国寺に寄進したのだそうです。そこには両親に対して、家業を継ぐことを放棄した懺悔の心がみてとれます。ところが明治時代、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)によってお寺が存続の危機に立たされ、相国寺は断腸の思いで「動植綵絵」を皇室に献納します。その見返りとしていただいた1万円でお寺は無事守られたのだそうです。相国寺に行かれると分かりますが、入口から本堂まで広い敷地が広がります。言ってみれば若冲が相国寺を守ったと言っても過言ではなく、今でもお寺では毎朝若冲の名を唱えているのだそうです。その絵が120年ぶりに戻ってくるのですから、相国寺側の思いはいかばかりでしょう。


<永代供養される若冲のお墓>

若冲の絵は「異界への窓」だと書きました。
絵をみていると何か「安定」「安寧」とは違う「引っかかり」を感じるのです。「エッジ」とでもいうのでしょうか。そこには魔力のようなものが潜んでいます。前述の村田氏曰く、「多種の中の異」を描きたかったのではないか。とのことで、それは「秋塘群雀図」の中の一羽だけいる白い雀にもみてとれますし、「薔薇小禽図」の中の無数の中の一輪だけ後ろ向きに描かれている薔薇にもみてとれます。そういういった「エッジ」はどの作品にも随所みうけられます。


<一羽だけ白く描かれた雀>

例えばそれは「多種の中の異」のみならず、独特であり奇抜とも言える構図、リアルでありながら奇妙なフォルムの植物や物質(なかでも雪のまるで生きているがごとくの異様な形は出色です)、生物達の色彩やスタイル。そしてそれら全てが若冲の想像で構成されトリミングされ完璧な一つの世界に仕上がっているのです。


<伊藤若冲《雪中錦鶏図》〈動植綵絵30幅の内〉/宮内庁三の丸尚蔵館蔵>
<若冲の頭の中の雪>

若冲が江戸時代にこのような作品を描いていたから素晴らしいのでは全くなく、彼がもし現代に生きていたとしても恐らく驚嘆される奇想の画家と賞賛されていただろうことに疑いをもちません。それと同時に奇才のデザイナーにもなっていただろうとも思います。奇想や画力やオリジナリティだけでなく、卓越したデザイン力、構成力が画家若冲の奇跡の世界を構成しているのですから。
そのセンスあってこその若冲ワールドの完成なのです。

若冲の作品を観ながら心は感謝の気持ちでいっぱいになりました。でもそれと同時にあっという間に別れが来ることの不安がすぐ心の中を満たしました。例えるなら幻の恋人が突然出現した様なものでしょうか。すごく幸せなのにどこかで別れの寂しさを感じてしまう。恐らく一つの絵だけでも一日中みていても飽きないでしょう、できればあの部屋で暮らしたいくらいです(笑)それだけの気持ちをこちらにおこさせる何かフェロモンのようなものが若冲の作品からは放たれているのだと思います。
少なくとも私はすっかりその虜となっているのでした。

それでは「番外編」につづく・・・
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20070426/p1

開基足利義満600年忌記念「若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会」
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「若冲と江戸絵画」公式ブログ
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会期: 2007年5月13日(日)〜 6月3日(日)
会場: 相国寺承天閣美術館
開館時間: 午前10時 〜 午後5時
(入館は午後4時半まで)
休館日: 会期中無休
観覧料:   当日券 前売券・団体割引
        一般  1,500円 1,200円
大学生/高校生/65歳以上 1,200円 900円
   中学生/小学生 1,000円 700円