「若冲展」京都で奇跡を観た 概要編


<伊藤若冲《群鶏図》〈動植綵絵30幅の内〉/宮内庁三の丸尚蔵館蔵>

この週末、京都に一泊で行って参りました。
旅の目的は京都の相国寺承天閣美術館で開催される「若冲展」です。


<相国寺 承天閣美術館>


皇室に献納された伊藤若冲の「動植綵絵」30幅が120年ぶりに相国寺に里帰りし、相国寺に納められている釈迦三尊像と再会、全33幅が一つの部屋で一挙公開される奇跡のような展覧会です。
開催期間が非常に短いのですが、これには事情があります。
作品を貸し出す宮内庁より、作品保護の観点からそれだけの日数しか公開することが許されなかったのだそうです。
若冲ファンであるならばこの機会を絶対見逃してはなりません。


<伊藤若冲《牡丹小禽図》〈動植綵絵30幅の内〉/宮内庁三の丸尚蔵館蔵>

もちろん私もここ東京から京都に行くべくプランを練っておりました。
そんな時ちょうど主催者側が「ブログにより本展の発信をしてくれる人」という限定で先行プレビューの公募を発表したのでした。だめもとで応募したところ、幸運にも審査に通ることができ、開催前日に愛して止まない若冲の絵に対面することができたのでした。
ネットによる「クチコミ」の力をこれからは無視できない時代になってきたとの発想から、このような試みが初めて行われることになったのだそうです。
というわけで我々には「15日(火)までにダイアリーをアップ(できれば)してくださいね。」との要望があるのでした。
がっ頑張ります。(昨日遅く帰ってきたので今必至です(笑))

集まったブロガーは総勢15組24名。私たちに与えられた時間は45分です。
展示は二室構成になっていて釈迦三尊像と動植綵絵33幅で一室。
他重要文化財の「鹿苑寺大書院障壁画」新発見作品、その他相国寺ゆかりの関連資料などで一室。
全80点に及ぶ展示になってます。
まず承天閣美術館の学芸員村田隆志さんに動植綵絵、他に今回展示される作品の解説をしていただきました。わかりやすく、興味深い解説で、その後展示を観る際に更に作品を深く観ることができました。
作品内容、展示の感想などはまた「展示編」にて書きたいと思います。


<33幅一挙にならんだ展示会場>


<片面はこのような感じです>

33幅がそろう第二会場に案内された時の感激と感動はちょっと言葉にできないほどでした。
泣きそうになるのを必至でこらえました。
展示の仕方にも関係者の方々のなみなみならぬ、思い入れを感じました。
監修には私の愛読書でもある「奇想の系譜」(若冲ほか奇想の画家達について解説された素晴らしい本です)の作者、辻惟雄氏も本展の監修に携われていたことを後にしりました。


<釈迦三尊像>

相国寺承天閣美術館の第二会場となったこの部屋はそもそもこの美術館の建設時、いつか全33幅が展示されるだろう日を想定して釈迦三尊像を中心に両サイドに15幅展示されるような設計で造られたそうです。建設が昭和59年とのことなので、まさに器は整い長い間その時を待っていた、ことになります。

学芸員の村田さんのお話によれば、釈迦三尊像を中心にどのように30幅を配置するか、色々検討がなされたようです。これについても「展示編」にて書かせていただきたいと思います。

本展はブライスコレクションと同じ所が運営しているようで、恐らく私たちの前(メディア向け、ゲスト向けなど時間枠で先行プレビューが行われていた)のプレビューにいらしていたのだと思われるブライスご夫妻
と会場に向かう途中すれ違いました。(とてもお声をかける勇気がなかった・・・。)

観覧時間は短かったのですが、わずか24名であれだけのものを観ることができた贅沢に心から感謝致したいと思います。
さらに主催者側よりは、図録、メディア用の画像CDロム(私たちには、一定の制約があるものの写真撮影も許されておりました)、ショップのお土産(一筆箋と釈迦三尊像のポストカード)までもいただき、いたれりつくせりでこれはこころして日記をかかねばと思っている次第です。

というわけで、「展示編」「番外編」へなるべく早く「つづ〜くっ!」

<展覧会案内詳細>
開基足利義満600年忌記念「若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会」
公式ホームページ
http://jakuchu.jp/jotenkaku/

会期: 2007年5月13日(日)〜 6月3日(日)
会場: 相国寺承天閣美術館
開館時間: 午前10時 〜 午後5時
(入館は午後4時半まで)
休館日: 会期中無休
観覧料:   当日券 前売券・団体割引
        一般  1,500円 1,200円
大学生/高校生/65歳以上 1,200円 900円
   中学生/小学生 1,000円 700円

サントリー美術館の懐は広かった 展示編


昨日に引き続き、サントリー美術館 展示編です。
現在行われてる展示は
サントリー美術館開館記念展「日本を祝う」
3月30日〜6月3日
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/index.html
「祥」「花」「祭」「宴」「調」をテーマにサントリー美術館コレクションの中から選りすぐりの作品を展示するというもの。実は最初は「期待はずれなのでは・・・」という思いで出かけて行ったのですが、これが行ってみたら嬉しい予想外で、サントリー美術館の懐、実は広かった・・疑ってごめんねサントリー、でした。

展示は屏風絵、絵画、絵巻、陶器、ガラス器、衣装、染め物、など収蔵は多岐に渡り、興味深い作品ばかりでした。
スペースそのものはそんなに広くないものの、隈氏のセンスの成せる技なのでしょうか、展示室もライティングから空間の取り方など、非常にゆったりとしていて観やすく、それが作品をより良く見せているように思われました。

行ってみて気が付いたのですが、会期の長いこの展示は3回に分かれて展示替えがあるそうで、私が行ったのはすでに2期目の終わりだったのでした。
狩野探幽の屏風絵が非常に観たかったのですが、今回はなく、はたして3期目にこれが展示されるのか・・・。とはいえ二期目の雲谷等璠作「孔雀図屏風」も見応えある素晴らしい作品でした。右に対の孔雀、左には三羽の白孔雀が配され紅白の花々と切り取られた樹々の構図が絶妙のバランスをかもしだしていました。日本の屏風絵の構図の切り方、空間の使い方をみていると、改めてこの金箔をあしらった美しい豪華なスクリーンは先人達にとって「屏風とは一つの『異界への窓』」だったのではないかと思わずにいられません。

そして現代の私も彼らと同じ風景を楽しめることに幸せを感じるのでした。その他にも興味深いもの多数ありました。
概要編でもふれました、伊万里焼きにて造られたオランダ人とオランダ船が描かれた「色絵五艘船文独楽形大鉢」美しい伊万里焼きの菊の文様をあしらった地模様にユーモラスなイラストチックなオランダ人やオランダ船が描かれてます。18世紀頃の作品です。
この頃の日本人にとって南蛮人達は豪華で珍しい物をもたらしてくれる福の神であり、またその船は宝船であったそうです。紋章を模した牡丹の花の図案も人物もとってもセンスがよくって「和」芸術一辺倒の時代にこの絵がかけるなんてちょっとすごい・・と感動しきりでした。

江戸後期に造られたコウモリをデザインした「切子藍色船形鉢」もデザイン性の優れた一品でした。

薩摩切子はわずか20年足らずで栄えて滅んでしまったそうで、かなり貴重な品と思われます。コウモリが黄金バットのように羽を広げたモチーフで船形の一端に、その対には巴紋が。みようによってはコウモリが惑星を抱えているようにも見えます。コウモリはその音より古来から中国では「福」を呼ぶ吉祥だったのだとか。コウモリにそんなポジティブなイメージがあったとは知りませんでした。

能衣装には美しい刺繍がほどこされ、その構図はそのまま掛け軸になりそうな素晴らしさでした。基本的には同じモチーフが描かれているのですが、その手間ひまだけでなく絵画的にも優れた作品でウィリアムモリスよりも刺繍プレミアムもプラスされてこちらの方が私は好きでした。

とてもユニークだったのは16世紀桃山時代の「鼠草子絵巻」という絵巻物です。

「鼠の権頭は人間の姫君と結婚して子孫を畜生道からすくおうとする。けれども結局は婚礼後、姫君に鼠であることがばれてしまい、破局を迎え姫にはにげられてしまう。権頭はショックを受け高野山に出家する。」という御伽草子でユーモラスなその話は当時は大流行したそうです。
絵巻の中に直接マンガのように人物名やセリフが書き込まれています。一部しか紹介されておらず、全部みたい!と思っていたら、なんとミュージアムショップに絵本化されて全容が売り出されてました。かゆいところに手が届く・・・がしかし、図録が重すぎて買うのは断念。今後もチェックしておきたい一品です。
(写真はねずみの権頭、人間の姫君と結婚の巻、セリフがかいてあります)

「三十三間堂通し屋図屏風」17世紀頃のこの作品では当時、堂裏の縁側にて南から北端までの120メートルを24時間で何本射通せるかをきそった祭り事がえがかれています。射手のみならず、その裏方達、後ろで茶をたてるもの、弓矢の用意をするもの、射手側、的側にそれぞれいる紅白の今で言うボンボンのような物をもったチアガール&ボーイ?が描かれていてとても興味深かったです。今週末京都にいくのですが、ぜひ三十三間堂の西の縁側、行ってみなければと思いました。


(三十三間堂通し屋の図、右上に射手が左下に紅白のボンボン隊)

などなど音声ガイドがあるので楽しさも倍増でたのしめた展示でした。

サントリー美術館の懐は広かった 概要編

ゴールデンウィーク中に東京ミッドタウンに新しく移転した
サントリー美術館に行ってきました。
展示についての日記は長くなるので明日またつづきにて載せます。
ということで今日は概要から。

東京ミッドタウンについたのはもう夕方も4時をすぎていたころ
でした。かなりの人手を予想してたものの、夕刻ということも
あって、思ったよりは混雑していませんでした。
お店は殆どスルーしてしまいましたが、美術館へのプロセス
としてミットタウン内を歩きました。
印象としては六本木、表参道各ヒルズよりずっとすっきり洗練
されてる感じがします。うたい文句通り、和を基調としてるせい
か、中庭的竹のオブジェがあったり随所に木の質感を感じられたり、和紙の行灯があったりと、最近流行の近代的無機質ビルとは一線を画してる感がありました。
そして敷地内の40%を締めると言う緑地が大きな窓からすっきりと見えるのも佇まいの落ち着きに大きくプラスの効果を与えてると思われました。やはりこれくらいの余裕(すべてにおいて)欲しい
ものです。

サントリー美術館、こちらも夕刻だったのがよかったのか思った
程は混雑してませんでした。チケット売り場は全く人が並んで
ませんでした。
こちらの美術館も和を基調として建築家の隈研吾氏が造られたとのこと。ミッドタウン内からは受付を通ってエレベーターで中に入ります。エレベーターをおりると目の前一面に和紙の行灯のように光る壁。床はウィスキー樽を再利用したホワイトオークといきなり自然の素材でつくられたスタイリッシュ空間がひろがります。美術館4階から3階の展示室へ向かう階段も外界の光を取り入れつつも日本の伝統的な作り窓「無双格子」が取り入れられて洗練された光空間が演出されてます。

3階に降りたところは少し広めの空間になっていて、格子窓の向こうに皮のイスがしつらえられそこから庭が見渡せるようになっています。イスには図録も置かれてました。GW中にもかかわらずこちらもゆったりすわれるすき具合。もしかしたらこの手の美術館はミッドタウンの観光客とはあまり客層がリンクしてないのかもしれません。
だとしたらある意味ここはオアシス的存在になるかもしれません。
個人的には居心地の良い空間だと思いました。

ミュージアムショップの品も展示品を元に作った物やその他オリジナルの「和」グッズ系で揃えられてましたが、例えば展示作品であった江戸時代作の伊万里焼による大皿、オランダ人とオランダ船籍の絵柄からとったピンバッチ、携帯ストラップなど、そもそも絵柄自体が現代のイラストとしても「かなりイケてます!」なキュートな作品を上手に商品化しているあたり、森美術館に見習って欲しい感じがしました。トートバックも和テイストでシックでなかなか良しでした。
図録を買ったのですが、ハードカバーの豪華な作りで印刷もきれいでした。これで2000円。ずっとこのクォリティを保てるのでしょうか・・・。保ってください。

実は今回、サントリー美術館の会員になりました。
レギュラー会員で年会費7000円。何度行っても無料で入れるだけでなく、同行者1名まで常に無料です。さらに、音声ガイドが1台無料でついてきます。図録やミュージアムグッズは10%オフで購入可です。
最初は入会するかどうか躊躇しましたが、今回のように3度入れ替えのある展示だとそれだけで3,000円かかることになります。そして今後のラインナップには最近かなりラブな「屏風」に光を当てた屏風絵の展示や、そしてなんと「鳥獣戯画がやってきた」と題する鳥獣戯画絵巻の全貌展などもある様子。キャパがそれほど広くない美術館なのでもしかしたら今回のように入れ替えがあるかもしれないことを考えるともうすでに元がとれてる・・・。
メンバー向けの学芸員のギャラリートークなども参加できるそうです。入館前は躊躇した私でしたが、見終わっての感想は「これなら入ってよかったかも」でした。

日本美術好きの方にはかなりおすすめかもしれません。

写真1、2はピンバッチにもなってるオランダ人&船籍の絵皿より
現代でも十分通じるセンスのいい絵!