祖母のソナチネ

2日から実家に戻ってました。
実家の隣には94歳の祖母が一人で住んでいます。
弟と一緒に亡き祖父にお線香をあげがてら、祖母の顔を
みに行きました。
祖母が赤いバイエルの曲を聴かせてくれたのは去年のお正月でした。

私が子供の頃、祖母はよく私にオルガンを聴かせてくれました。
そのオルガンは明治時代につくられたもので、鍵盤は象牙でできてい
いてパイプオルガンのように引き出すキーがいくつもついた、
豪華で素敵な代物でした。
当時の祖母のオハコは「エリーゼのために」でした。
私はそんな祖母にあこがれて、祖母に紙に書いた鍵盤でピアノを
教えてもらい、じきにピアノ教室に行き始めたのでした。
(指の力が弱かったため、バイエル終了と同時に同じ先生が教え
ていたエレクトーンに転校させられてしまいましたが)

祖母のオルガンは私にとって特別な大切なものだったのに、
20代のある日実家にもどったら音楽を全く解さないうちの
両親によって老朽化が激しいその楽器は骨董家具としてたった
の3000円で骨董品屋に売られていたのでした。
信じられませんっ!欲しかった・・・せめて家具としてでも。
当の祖母ももう楽器としては殆ど機能しないそのオルガンを
捨てるしかないと思っていた様なので致し方ないのですが・・。

そんな祖母が再び鍵盤楽器に出会ったのは2年前の92歳の時。
駅前の楽器屋さんのショーウィンドーに飾られてるエレピアノを
みつけたとたん、欲しくて欲しくて仕方なくなったのだそうです。
何日か悩んで、私の両親に相談し、それならば買ったら良いじゃ
ないかということになり、めでたく祖母の家にやってきたそうです。

その時のくだりを話す祖母は今でもとても嬉しそうに目を細め
ます。それから祖母は毎日毎日練習をしているのだそうで、
老人会のカラオケの先生に歌の代わりにピアノを教えてもらう
ことにして、レッスンもうけて、楽譜がよく見えないからと
ずっとしぶっていた白内障の手術も去年受け、いつしか
ソナチネを弾くようになっていたのでした。

私たちの前でソナチネの1番と9番を弾いてくれたそぼは
「ちっともうまくないから」と恥ずかしそうでしたが、
とても92歳からピアノを始めたとは思えない程うまくて
私たちはすっかり感動してしまいました。最初は昔ピアノを
ならっていたからすぐ勘が戻ったのかとおもっていたのですが、
祖母曰く、ピアノを習った事は一度もなく、昔私に弾いてくれた
「エリーゼのために」も「あれは耳で聞いて覚えた自己流なの
フフフ・・」だそうで、音大に憧れた事もあったけれど、
戦争が始まってしまってとてもそれどころではなかったのだ
そうです。それを聞いて感動を新たにしたのでした。
私たちなんかまだまだぜんぜん若造で、これから何かやるの
なんてぜんぜん遅くないなぁ・・・とまだまだやれることは
たくさんあるし、ありすぎると。
祖母のソナチネは色々な事を教えてくれたのでした。

祖母はいまソナチネ9番をオハコにするのを目標にしていて
暗譜して弾けるようになりたいのだそうです。理由はテレビを
観ていたらこの曲が流れてきて、とても素敵で憧れたからなのだ
そうです。そう言いつつちゃんと次の曲も練習していてただいま
練習中なのは12番。ほんとキラキラしてて素敵でした。
演奏後の笑顔も最高に愛らしかった。
またこれからもピアノ聴かせてね。おばあちゃん。

welcome New Year

新しい年が明けましたね。
本年もよろしくお願い致します。

2006年は私にとっては忘れる事ができない、つらい事
があった年になりました。夏が終わる頃までは本当に・・・
でも生を与えられてるものとして、前を向いて生きて行く事が
一番なすべきことと信じ、後半の季節を信念を持って
進みました。個展をやったことは精神的に大変だったけれど
同時に精神的に私を救ってくれました。ただ前を向くことに
専念させてくれたから・・。そしてそれに呼応するように
少しずつ「実り」が見えてきた年の後半でした。
この一年、私を支えてくれたたくさんの友人に本当に感謝
しています。友の温かさをこれほど感じた一年はありませんでした。
みんなほんとうにありがとう。

一年の始めなのでちょっとまじめに書いてみました。

そして今年もがんばる!・・・って言ってるそばから
ウィルス性の胃腸炎になって昨日は一日点滴打ってました。
↑やれやれ・・・まぁ厄落としということで良しとしましょう。

皆さま良い一年にしましょうね。

スーパーエッシャー展

Bunkamuraでやっている「スーパーエッシャー展」に行ってきました。
最も行っては行けないと思われる週末土曜日に行きましたが、案の定
非常にこんでおりました。
在庫があるか不安だった音声ガイドは豊富にあり、しかも無料と言う
太っぱらぶり。機種は今流行のニンテンドーDS。

という訳で解説付きでエッシャーワールドたっぷり堪能しました。
それというのも、非常な混雑故、全く進まないので、必然的に一つの
絵の前に3分〜5分くらいいることになり、時には絵と絵の間の壁なんか
もじっくりながめ、これを前向きにとらえれば、エッシャーの彫り
さばき、ビュランさばきを気兼ねする事なく細部にわたるまで
観察できたということになりましょうか。

人でいっぱい→進みが滞る→驚異的倒錯ワールドの緻密な絵→
じっくり鑑賞(ときどき音声ガイド)→人が溢れ代える→
進みが滞る→驚異的倒錯ワールドの緻密な絵・・・
会場はエッシャー的無限地獄が展開されさながらパフォーマンスの一部
のようでした。

初期の、風景画などは普通の風景画ですが、それ故にエッシャーの画力
のすごさがつたわってきました。どうもエッシャーは南イタリアの風景を
心から愛していたようで、それ以外の、自国オランダを含むヨーロッパの
町並み風景には味気ないものしか感じる事ができず、ファシズムが台頭して
以来、イタリアに行く事が叶わなくなってより、自身の心象風景を描く
ようになっていったそうです。
言われてみれば、エッシャーが描く階段がいっぱいあるまるで崖っぷちの
海辺にたっている四角い箱を積み重ねた様な、不可思議な家々は南イタリア
の海辺によくある風景を思わせます。

一つの画面に飛ぶ昼の世界の鳥と夜の世界の鳥、平面の中に無限にはめこま
れた魚と鳥、4次元にも5次元にもなってる家。上から落ちる滝が落ちる先は
滝の最上部。一つの階段を永遠に上り続ける人々と降り続ける人々が回歩
している絵。その不可思議な世界は渋滞や混雑が起きても致し方ないと
納得の、吸い込まれる倒錯世界です。コンピューターがない時代にこれほどの
立方体や平面を無限に組み合わせられた彼は数学的天才だったに違いありません。
エッシャーがこの世界を描いた当時も美術的注目よりも数学や心理学者達が
彼の描く世界に多大な感心を寄せていたそうです。

私が大好きなヒロエニムス・ボッシュの作品をリトグラフに起こした作品
もあり、ちょっと感動しました。エッシャーはこの中の女性のモチーフ
が気に入っており、自身の作品の中にもその後何度か登場させてました。

エッシャーは数多くの生物をモチーフとして描いていますが、自身の
数学的理論に基づいた新種の生物も創造して作品に登場させてます。
48語もの長い学名を持つトカゲの様な体を持ち人間の足が6本ついた
つぶらな瞳を持つ生物はオランダ語のニュアンスをそのまま訳すと
「でんぐりでんぐり」という名前だそうで、エッシャーの作品の中では
階段部分は6本の足を駆使して上り下り、平地ではアルマジロのように
まるくなりキャタピラのようにグルグル回って進んでいます。
とてもキュートで私は一目惚れしてしまいました。


よくできたフィギア「でんぐりでんぐり」


平地を歩く時はこのように丸くなります。

一つおもしろい試みの部屋がありました。
エッシャーの無限ワールドを画像として3Gのように映し出している
その部屋では、4つの画面があり、うち3つは直接画面に手をふれると
指の方向どおりにエッシャー生物が動きます。矛盾のない無限世界は
CG処理しても完璧に再現できているのでした。残る1画面は「深み」
という作品を画像に起こしたものです。トビウオが前後左右上下に
直線に規則的に並んだ絵ですが、カメラがあらゆる方向からその絵を
眺めるような視点で映像ができていて、三面鏡を覗き込んだ時の様
なワクワクする不思議な無限が矛盾なく映し出されていました。

混雑も手伝ってミュージアムを出た時には2時間もたっていました。
出てからの重要なお楽しみが一つ。
300円でエッシャーフィギアが買えるガチャガチャの販売機が
設置されているのです。「ガチャガチャ」というときめきプレミアム
付きで面白フィギアがゲットできるのですから購入必至です。
そして出て来たのは一番欲しかった「でんぐりでんぐり」!
う・・嬉しい!おみくじで大吉にあたったような気分です。

エッシャー好きならぜひトライしてみてください。