名前 アサリ編

先日、生きの良いアサリを買いました。
私は「砂抜きアサリ」でも砂を抜く主義なのでいつも海のにがり
入りの海塩でスチレンのボールに塩水を作り、そこに5時間以上
前にはアサリさん達を投入。夜行性のアサリさんの気持を考慮し、
パン用のカッティングボードをフタ代わりに完全なる暗闇を
演出し、アサリがゆっくりのびのびと塩をはける環境づくりを
するのです。

こだわりの環境のわりにはずぼらなので、塩分量はいつも味見で
勝負です。自分が海で「波に飲まれたあの頃」を思い出しつつ、
こんな味だった、いやもっとしょっぱかった、などと微調整します。
もちろん15分後くらいにアサリさん達がちゃんと顔を出しているか
のチェックも怠りません。
私の想い出が間違っていると、彼らもちゃんと固く心を閉ざし
ぴくりとも動いてくれませんが、私の想い出味覚が正しければ
彼らは幸せいっぱいとばかりに体を貝から延ばしてくれている
のです。その姿は昔飼っていたカタツムリを思い出させます。
この時点で、愛着度10のうち4ポイントくらい獲得です。

あまりに気持いいのか、彼らがよごれものをいっぱい吐き出した
時にはmy塩水をちゃんと交換することも忘れません。
そう、それくらいマメにチェックしてるのです。
この時点で愛着度6(約3時間経過)
このあたりからいつも非常に気をつけている事があります。
それは「名前」です。
この頃になると、それぞれの貝の特徴が目につくようになって
きます(マメにチェックしてるから)この貝はよく砂を吐くな、
とか、この子はのぞくとすぐ引っ込む恥ずかしがりやさんだな、
とか、この子の模様は本当にユニークできれいだな、とか・・
そうなると、もうここが限界です。これ以上の愛は危険です。
だって私は彼らの末路を知っているのですから・・・
もし、ここで私がアサリさん達に「さくらちゃん」とか
「サリーちゃん」なんて名前などつけたりしたら一気に愛着度
が10に跳ね上がること必至です。名前の威力はすごいのです。

なのでこれ以降、私は心を閉ざし、カッティングボードのフタも
心同様、固く閉ざし、来るべきときまでアサリさん達との距離を
置きます。
名無しのアサリとの愛は距離によって急速に冷めてゆくのでした。
そして努力の愛着度3(お料理1時間前)。
いよいよその時が来たらなるべく個々を見ないように手早く洗い、
鍋のふたをします。
そのようにして先日も危うい関係を乗り越え美味しくアサリを
いただいたのでした。

名前にまつわるエピソードその2につづく

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